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弁済 ( 行政書士の「民法」)
行政書士試験ランクA
債権の消滅事由の主なものとして、弁済と相殺がある。
弁済は、売った家を売主が引き渡す、借金した者が借金を返す、など、約束通りに債務を履行することであり、債権者の受領により債権が消滅する。
相殺は、2人の者が対立する同種の債権を持つ場合、一方の当事者の意思表示で、その相当額を消滅させることをいう。
その他に債権の消滅事由となるものには、代物弁済、供託、更改、混同、免除、がある。
弁済とは、
債務の本旨に従い、債務内容通りの給付を実現する、債務者・第三者の行為をいう。
債務者が「弁済の提供」をし、債権者が受領することにより、
債権の消滅という効果を生む。
債務の本旨に基づいた弁済
《債務の本旨に基づいた弁済》
弁済の目的 | 弁済の場所 | 弁済の様態 |
---|---|---|
特定物債務 | 債権発生時の 特定物の所在場所 | 履行期の現状で引き渡せば足りる (現状のままの引き渡しで 債務の本旨に従った弁済となる) |
不特定物債務 | 債権者の現在の住所 | 瑕疵のない物を引き渡さなければならない (品質・数量が債務の内容に適合していること) |
- 弁済の費用は、特約がない限り、債務者が負担する。
- 但し債務が金銭債務で
遅延利息が生じている場合は、その利息分等も提供しなければならない。
弁済の提供
弁済の提供とは
「債務者が給付を実現するために必要な準備をして、債権者の協力を求めること」をいう。
債務者は、弁済の提供を行うことにより その時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。 |
《原則:現実の提供》
弁済の提供は、債務の本旨に従い、現実にしなければならない。
《例外:口頭の提供》
・債権者があらかじめその受領を拒んだとき
・債務の履行に、債権者の協力が必要なときは
弁済の準備をしたことを「通知」し、その受領を「催告」すれば足りる。
《弁済の提供の方法》
原則 | 現実の提供 | |
---|---|---|
例外 | 債権者があらかじめ受領を拒んでいる場合 | 口頭の提供 |
履行につき債権者の行為を要する場合 |
*現実の提供 …債権者が目的物を受領する以外に何もしなくてよいほどの提供。
*口頭の提供 …債務者が、現実の提供ができるように準備して、受領を催告すること。
第三者の弁済
弁済は、本来は債務者が行うものである。
ただし、一定の場合は第三者も弁済することができる。
①性質上、第三者の弁済が可能であること
性質上、本人しかその債務を弁済できないもの(プロのピアニストが演奏する債務など)を
第三者が弁済することは当然できない。
(債務の性質上、第三者の弁済が可能であることが、前提条件となる)
②利害関係がある者の弁済
物上保証人、抵当不動産の第三取得者など、当該債務に利害関係をもつ者は、
債務者の意思に反しても、弁済できる。
(利害関係者は、債務が弁済されないと、自己の財産を失うおそれがあるため)
③親・兄弟など、利害関係のない者の弁済
親、兄弟など、債務につき利害関係のない者の弁済は、
債務者の意思に反しない限りにおいて、弁済できる。
(親・兄弟などは、債務者本人がOKしないと、弁済できない)
権利なき者への弁済
弁済は、債権者・受領権者に弁済しなければ、弁済の効力が生じないのは当然である。
ただし、債権者の代理人を装った者などに誤って弁済した場合は、
以下の条件のもと「有効な弁済」となる。
《債権者・弁済受領権限を有する者「以外」への弁済》
受領権なき者への弁済が「有効となる場合」 | ||
準占有者への弁済 | ・偽造した債権証書の持参人 ・債権者の代理人と詐称した者 など | 弁済を行った者が 善意・無過失 であること |
「受領書」持参人への弁済 |
*ただし、「受領書」の場合は、真正の物でなければならない
(偽造した受領書ではダメ)
上記「以外」における、受領権なき者への弁済は、
「債権者がその(誤った)弁済によって、
債権者が利益を受けた場合には、債権者が受けた利益の範囲内でのみ有効」 となる。
弁済による代位
物上保証人など債務に利害関係がある「第三者が弁済」した場合、
弁済した者は、当然、
もともとの債務者に対して求償(建てかえた金の返還請求)することができる。
そして求償権だけでなく、弁済したことにより「債権者に代位」して、
債権者が有していた権利(抵当権など)が、弁済者に移転する。
これを「弁済による代位」といい、
弁済した者は、もとの債務者に対して抵当権を実行して弁済分を回収することができる。
「弁済による代位」には、法定代位 と 任意代位 がある。
法定代位
…保証人、連帯債務者、物上保証人、抵当権の第三取得者など
弁済をするについて正当な権利を有する者は、
「債務者の承諾がなくとも」当然に債権者に代位する。
任意代位
…債務者のために弁済をした正当な権利・利害関係を有しない親・兄弟などは、
債務者の承諾を得た場合に限り、債権者に代位することができる。⇒「弁済による代位」
一部弁済による代位
債権の「一部」について債務者以外の者の弁済があったときは
弁済者は、弁済したその「価額に応じて」、債権者とともにその権利を行使する。
*一部弁済の場合、「契約の解除」は、債権者のみがすることができる。
(債権者は、一部代位者に対し、弁済した価額・その利息を償還しなければならない)
その他
代物弁済
代物弁済とは、債務者が、債権者の承諾を得て、
本来の債務の代わりに他の物で弁済すること。
- 代物弁済は、要物契約であり、物の引渡しをしない限り、債務は消滅しない。
(不動産での代物弁済の場合、所有権の移転登記などを完了しなければ効果が生じない。)
(所有権の移転そのものは、契約時。)
受取証書・債権証書
弁済した者は、受取証書(領収書など)や債権証書(借用書など)の交付を請求できる。
- 弁済と受取証書の交付は、同時履行の関係。
- 弁済と債権証書の交付は、同時履行の関係に立たず、弁済が先履行となる。