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法定地上権 ( 行政書士の「民法」)
行政書士試験ランクA
たとえば、「土地」とその土地上の「建物」を所有するAが、
借金するに当たり「土地だけに抵当権を設定した」場合を考えてみる。
Aが借金を返済できず、抵当権が実行・競売され、土地の所有権が第三者Bに移転すると
建物はAの所有だが、土地はBの所有となり、
建物は取り壊されることになってしまう。
(これまで建物と土地が同一者の所有だったため、借地権などの設定がないため)
こうした社会経済上の損失を回避するため、
Aのために自動的に地上権が成立することが認められている。
これを「法定地上権」という。
法定地上権の成立要件
法定地上権が成立する要件は以下。
法定地上権の成立要件 |
① 抵当権の設定時に、土地上に建物がある。 ② 抵当権の設定時に、土地と建物の所有者が同一である。 ③ 土地、建物の両方又は一方に抵当権が設定された。 ④ 抵当権の実行により、土地と建物の所有者が別々になった。 |
①~④が、法定地上権が成立するする要件であるが、
現実には様々なケースがあり、成立する場合、しない場合が出てくる。
①抵当権の設定時に「土地上に建物がある」
【例1】
抵当権の設定時に建物はなく、
その後建物が建築され、土地と建物の所有者が同一になった。
⇒法定地上権は「成立しない」 ( ①の要件を満たしていない )
抵当権者は「更地」について「担保評価」を行っており、
建物付きの土地では担保価値が著しく低下してしまうため。
【例2】
第一抵当権が「更地」に設定され、その後、建物が建てられた。(土地と建物は同一人の所有)
この時点で第二抵当権が「土地」に設定され、第二抵当権が実行された。
⇒法定地上権は「成立しない」
抵当権実行は、目的不動産上のすべての担保権のために一括清算される。
よって、第二抵当権の実行によって、「更地」を評価して設定された第一抵当権が
侵害されることを避けなければならない。
【例3】
「更地」に抵当権が設定され、抵当権者の同意のもとで、その後に建物が建てられた。
⇒抵当権者が更地として評価していたことが明らかな場合は、
法定地上権は「成立しない」
【例4】
「土地への」抵当権設定時に土地上に建物があり、建物の朽廃により、新たな建物が建てられた。
⇒法定地上権は旧建物を基準として「成立する」
【例5】
「土地と建物に」抵当権が設定され、その時に土地上に建物があり、
その後、建物の朽廃により、抵当権者の同意のもと、新たな建物が建てられた。
⇒新たな建物が建てられたときに、その建物に抵当権が設定されなかった場合は
法定地上権は「成立しない」
(抵当権者は、担保評価を「更地に変更した」と考えられるため)
②抵当権の設定時に「土地と建物の所有者が同一」
【例6】
抵当権の設定時には「土地」と「建物」の所有者が別人であった。
競売の時点では、同一所有となっていた。
⇒法定地上権は「成立しない」 ( ②の要件を満たしていない )
当初、土地と建物が別所有であった場合は、敷地利用権が設定されていたはずであり、
敷地利用権は、抵当権実行によっても消滅しないため、法定地上権は不要。
また、土地に対する抵当権者は、借地権等を前提に担保評価を行っていたはずであり、
より強力な法定地上権が成立すると価格が不当に下落する恐れがある。
【例7】
1番抵当権の設定時には、「土地」と「建物」の所有は別人であったが、
2番抵当権の設定時には同一人となっていた。
⇒1番抵当権が「建物」に設定されていた場合 ⇒法定地上権は「成立する」
法定地上権を認めても、建物の担保価値は下がらない。⇒1番抵当権が「土地」に設定されていた場合 ⇒法定地上権は「成立しない」
法定地上権により土地の担保価格が下がり、1番抵当権者を害するおそれがある。
【例8】
抵当権の設定時には、「土地」と「建物」の所有者が同一であったが、
競売時には、別人所有となっていた。
⇒法定地上権は「成立する」
・「土地」に抵当権が設定された場合は、
別人所有となった時点で借地権が設定されているはずだが、
これは抵当権設定後であるため短期しか保護されない。
(法定地上権によって、建物の存続を図る必要がある。)
(抵当権者も、法定地上権の成立を前提に担保評価を行っているはずである)
・「建物」に抵当権が設定された場合は、
抵当権者は法定地上権の成立を前提に担保価値を評価していたはずであり、
むしろ弱い借地権になってしまうと「建物」の価値が下がり、
抵当権者を害するおそれがある。
土地または建物が「共有」の場合
【例9】
「土地」が共有の場合
⇒法定地上権は「成立しない」
土地が共有の場合、建物のために借地権が設定されているのが通常。
より強力な法定地上権が成立すると、他の土地の共有者の利益を害する。
【例10】
「建物」が共有の場合
⇒法定地上権は「成立する」
建物が共有の場合、建物に借地権が設定されていいたとしても
法定地上権の成立は、他の共有者の利益になる。
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