無権代理か?表見代理か?
《ケーススタディ》
Aは、Bの代理人であると主張して、Cとの間で、Bの不動産を譲渡する契約を結んだ。
しかし、Aは、Bの代理人であることを証明することができなかった。
そこでCは、Aに対して無権代理人の責任として損害賠償を請求したが、
Aは、
「代理権消滅後の表見代理が成立するから、無権代理ではなく、表見代理の責任を追及すべき」
と抗弁してきた。
このような抗弁は有効か?
無権代理と表見代理の関係
無権代理であれば、
無権代理人は、履行又は損害賠償の責任を負う。
表見代理であれば、
本人は、契約などの効果を拒むことができなくなる。 ⇒(無権代理と表見代理)
つまり、無権代理も表見代理も、「相手方の保護」目的とした規定である、といえる。
これは代理関係の不備から生じた問題から相手方を守るということであり、
無権代理も表見代理も「広義の無権代理」に含まれるものと考えられている。
判例は、相手方に選択権がある、としている
もし、Aの「表見代理の要件が成立している」という抗弁が認められ
Cに表見代理の訴求の道しかない、としたらどうだろう?
上記ケースの「代理権消滅後の表見代理」においては
相手方Cに過失があった場合、表見代理は成立しないことになる。(民法112条)
この過失の有無は、裁判においても微妙な問題を生じやすいところだ。
こうなるとCは、無権代理での訴求もできず、
表見代理も成立せず、AまたはBの代理関係における不備から生じた問題であるにもかかわらず
Cが損害を甘受せざるを得なくなる。
この問題に対して最高裁判所が決着をつけた判例がある。(最判昭62.7.7)
この判例では
「無権代理制度も表見代理制度も、いづれも相手方を保護するための制度であり、・・・
無権代理の責任の要件と表見代理の要件がともに存在する場合であっても
表見代理を主張するか否かは相手方の自由であり、
表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人の責任を問うことができる」
としている。
Aの抗弁は認められない。
狭義の無権代理も、表見代理も、相手方の保護を目的とするからである。
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