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債務不履行 ( 行政書士の「民法」)
行政書士試験ランクA
債務不履行とは、「故意又は過失によって自分の債務を履行しないこと」をいう。
片方が債務不履行となると、相手方は「損害賠償請求」や「契約の解除」を行うことができる。
債務不履行には、主に、履行遅滞と履行不能がある。
履行遅滞
履行遅滞とは、例えば、建物の売買契約を締結した売主が、うっかり引渡し日を忘れて
引渡しが遅れるなど、正当な理由なく、履行期に債務者が履行しないことをいう。
履行遅滞は以下の条件がそろった場合をいう。
履行遅滞の条件 |
① 履行が可能である |
② 履行期が過ぎている |
③ 債務者の責めに帰すべき事由がある(故意・過失) |
④ 履行しないことが違法である |
*④の「違法性」については「同時履行の抗弁権」が問題となる。
(同時履行の抗弁権が主張できるケースでは、履行遅滞とはならない。)
履行遅滞となったとき、
債権者が取り得る手段には
①強制履行、②損害賠償請求、③契約の解除 がある。
強制履行
《強制履行の要件》
・債務者が履行期に、任意に、債務の履行をしないこと
(債務者の「責めに帰すべき事由」は不要)
《強制履行の態様》
直接強制 | ・債務者が任意に債務の履行をしないときは 債権者は、その履行を裁判所に請求することができる。 ・国家の執行機関の力によって、債務者の意思にかかわりなく 直接に債務内容を実現させる方法 |
代替執行 | ・債務が作為を目的とするときは、 債権者は、債務者の費用で、第三者にこれさせることを 裁判所に請求することができる。 ・不作為を目的とするときは、債務者の費用で 債務者のした行為の結果を除去し・処分することを 裁判所に請求できる。 |
間接強制 | ・債務を履行するまで、債務者に金銭の支払い義務を課し 心理的に圧迫して、間接的に債務の内容を実現させる方法。 (契約の目的物を引き渡さない場合に、一定期間内に引き渡さなければ 一定額の金銭支払いを命じる、など) |
損害賠償請求
損害賠償の請求には、履行遅滞の①~④の要件に加えて以下の要件が必要。
損害賠償請求の要件 |
⑤ 損害の発生。 |
⑥ 損害と債務不履行に因果関係がある。 |
- 損害賠償の請求
- 別段の特約がない限り、金銭により賠償する。
- 通常なら生じる損害(通常損害)の額だけ請求できる。
- 債務者が、特別な事情を予見していた・予見することができた場合は
特別な事情によって生じた損害(特別損害)の額まで請求できる。
《過失相殺》
債権者にも過失があった場合、その過失を考慮して
債務者の賠償責任の有無・範囲を定める。
…不法行為の場合とは異なり、債権者にも過失があれば必ず考慮される。
(債権者の過失の程度によっては、債務者の損害賠償責任自体が免除されることもある)
《損害賠償額の予定》
債務不履行の場合に賠償すべき額をあらかじめ当事者間で契約すること。
・債務不履行の事実をもって、約定の賠償額を請求できる。
・裁判所は、この約定の賠償額が過大・過少であっても、これを増減できない。
・金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を契約することができる。
《金銭債務の特則》
売買代金の支払い等、金銭の支払いを目的とする債務を「金銭債務」という。
金銭債務については、以下のような特則がある。
・損害賠償額は、法定利率(年5%)によって定める。
(ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。)
・債権者は、損害の証明をすることを要しない。
・債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
(金銭債務の債務者は、故意・過失がなくとも、債務不履行責任を負う。)
・金銭債務は、履行不能とならずに、常に履行遅滞となる。
契約の解除
契約の解除には、履行遅滞の①~④の要件に加えて以下の要件が必要。
契約解除の要件 |
⑤ 相当の期間を定めて催告すること。 |
⑥ 解除の意思表示をすること。 |
⇒契約は「最初から存在しなかった」ことになる
- 当事者双方は「原状回復義務」を負う。
〈動産・不動産〉 元の状態にもどす
〈金銭〉 受け取った時からの利子をつけて返還する- 解除は、相手方への意思表示により行う。
- 解除によって解除前の第三者の権利を害することはできない。
- 解除権の行使は、損害賠償請求権を妨げない。
- 契約の解除による双方の原状回復義務は、同時履行の抗弁権が認められる。
- 解除の意思表示は、撤回できない。
- 当事者が数人いるときは、全員からまたは全員に対して
解除の意思表示をしなければならない。(解除権の不可分性)
履行期と履行遅滞
《履行の責任を負う時》
債務の期限 | 遅滞の責任を負う時 |
---|---|
確定期限があるとき | 期限到来の時から |
不確定期限があるとき | 期限到来したことを知った時から |
期限を定めなかったとき | 履行の請求を受けた時から |
履行不能
履行不能とは、例えば、建物の売買契約を締結した売主が、過失によって建物を消失し、
引渡しができなくなるなど、債務者の責めに帰すべき理由によって、
債務の履行が不能になることをいうことをいう。
履行不能は以下の条件がそろった場合をいう。
履行不能の条件 |
① 契約成立後に、履行が不能となる |
② 債務者の責めに帰すべき事由がある(故意・過失) |
- ②については、天災等の不可抗力によって履行不能となった場合は、
「危険負担」の問題となる。- 債務者に帰責性あり⇒履行不能
- 不可抗力 ⇒ 危険負担の問題 (「危険負担」ページへ )
履行不能となったとき、
債権者が取り得る手段には
①損害賠償請求、②契約の解除 がある。
損害賠償の請求
履行不能により損害が発生した場合、原則として金銭による損害賠償を請求することができる。
(内容は、履行遅滞による損害賠償と同じ)
契約の解除
履行不能の場合、催告しても履行の可能性がないことから
催告をすることなく、直ちに解除することができる。
(効果は、履行遅滞における契約の解除と同じ)
- 履行遅滞の場合の解除・・・相当の期間を定めた「催告」が必要
- 履行不能の場合の解除・・・催告不要、直ちに解除できる
不完全履行
不完全履行の場合、
①完全に義務を果たすことが可能な場合
⇒履行遅滞と同じ処理(強制履行、損害賠償請求、契約の解除)
②完全に義務を果たすことが不可能な場合
⇒履行不能と同じ処理(損害賠償請求、契約の解除)
受領遅滞
債権者が、債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは
債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。
これを債権者の「受領遅滞」といい、債務者の履行遅滞と違い法定責任である。
受領遅滞においては、
解除や損害賠償請求などはできないが、
債務者の不履行責任がなくなる、危険が債権者に移転するなどの効果をが生じる。