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行政上の強制手段 (行政法)
行政上の強制手段とは、
行政機関が行政目的を実現し、実効性を確保するために国民に対して行う強制手段の総称。
行政上の強制手段には、
①行政強制 …行政目的実現のために、私人の財産・身体に強制力を加える、
②行政罰 …私人の行政上の義務違反に対し制裁を科す、
がある。
《行政上の強制手段》
行政上の 強制手段 | 行政強制 | 行政上の 強制執行 | 代執行 |
執行罰 | |||
直接強制 | |||
行政上の 強制徴収 | |||
即時強制 | |||
行政罰 | 行政刑罰 | ||
秩序罰 |
行政強制
行政強制は、国民の「義務の不履行の有無」により、
①行政上の行政執行
②即時強制
に分けられる。
《 行政強制(行政執行と即時強制)》
行政 強制 | 行政上の 強制執行 | 行政上の義務が国民によってなされなかった場合に 行政自身が、履行された状態をつくり出す作用。 (代執行、執行罰、直接強制、行政上の直接徴収、がある) |
---|---|---|
即時強制 | 急迫の障害を取り除く必要がある場合などに 義務を命じることなく、直ちに国民の財産・身体に強制力を加え、 行政上の必要な状態を作り出す作用。 (国民に義務を課すことがない点で、強制執行と違う) |
行政上の強制執行
《 行政上の強制執行 》
- | 内容 | 具体例 | 一般法 |
---|---|---|---|
代執行 | 代替的作為義務が履行されない場合に 行政庁自らこれを行い、又は第三者に行わせ、 その費用を義務者から徴収すること。 | 違法建築物の 強制撤去 | 行政代執行法 |
執行罰 | 非代替的作為義務、不作為義務の不履行に対し 過料を課すことを予告することで 間接的に義務履行を強制すること。 | 砂防法 | なし |
直接強制 | 義務の不履行に対して、 直接、実力を加えること。 | 不法入国者の 強制退去 | なし |
行政上の 強制徴収 | 公法上の金銭給付義務を、 任意に履行しないとき 強制的な手段をとること。 | 国税徴収法の 滞納処分 | 国税徴収法 を適用 |
代執行
代執行とは、
行政上の代替的作為義務(他人が代わってすることができ、かつ、一定の行為が必要な義務)を、
義務者が履行しない場合に
行政庁が自らその行為を行い、又は、第三者にそれを行わせ
その費用を義務者から徴収するもの。
(一般法として、行政代執行法がある。)
《代執行の対象》
代執行の 対象となる義務 | 法律(法律の委任に基づく命令、規則、条例)により直接命じられたもの |
法律に基づき行政庁に命じられたもの |
《代執行の要件》
代執行の 要件 | 法律又は行政行為(命令)による作為義務がある |
代替的作為義務である | |
他の手段によってはその義務履行が困難 | |
その不履行を放置することが著しく公益に反する |
・不作為義務は、代執行の対象とならない。
《代執行の手続》
代執行の 手続 | 戒告 | 相当の履行期間を定め、 その期間までに履行されないときは代執行を行う旨を あらかじめ文書で戒告する。 |
---|---|---|
代執行 令書 | 指定した期限までに義務の履行がなされないとき 行政庁は、代執行令書を発し、 代執行の時期、執行責任者、費用の見積額の概算を通知する。 | |
証票 | 代執行の際には、執行責任者は、 みずからが執行責任者であることを示す証票を携帯し、 相手の要求があれば呈示しなければならない。 | |
費用の徴収 | 代執行に要した費用を、国税徴収法の滞納処分の例により 義務者から徴収する。 |
- 非常の場合、危険切迫の場合は、例外的に
戒告、代執行令書による通知、を省略することができる。
即時強制
即時強制とは、
義務を命ずることなく、直ちに、直接に国民の身体や財産に実力を加え、
行政上の必要な状態を作り出す作用をいう。
- 法律上の根拠が必要。(条例も可)
- 警察官職務執行法に基づく、泥酔者の保護
- 消防法に基づく、延焼のおそれのある対象物の破壊
- 事実上の行為であり(不利益処分に当たらない)、行政手続法の規制を受けない。
⇒即時強制
行政罰
行政罰とは、行政上の義務違反行為に対して課される罰則。
- 過去の行政上の義務違反に対する制裁。
- 強制執行は義務の実現、行政罰は制裁。
- 執行罰は、義務履行を目的とした圧力(間接強制)、
行政罰は、過去の義務違反に対する制裁。
- 法律、条例の根拠がなければ科すことはできない。
行政罰は、行政刑罰と秩序罰に分類される。
⇒行政罰
行政刑罰
行政刑罰とは、
行政上の重大な義務違反を、犯罪として処罰する際に科される刑罰。
- 行政刑罰は、犯罪行為であり、刑法総則の規定が適用される。
(共犯の処罰方法の規定など) - 刑事訴訟法の手続に基づいて、裁判所が刑罰を科す。
(使用者にも科せられる場合がある)
(法人も使用者として処罰される場合がある)
- 刑罰の種類は、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料 がある。
秩序罰
秩序罰は、
行政上の犯罪に至らない行政上の軽微な義務違反に対して科される罰則。
- 罰則は、過料のみ
- 国の法令に基づく場合は、非訟事件手続法にしたがって裁判所より科され、
条例や規則に基づく場合は、地方公共団体の長が科す。
《行政刑罰と秩序罰》
・・ | 行政刑罰 | 秩序罰 |
---|---|---|
対象 | 重い義務違反 (不衛生食品の販売) | 軽い義務違反 (届出義務の不履行) |
規定できる 法規範 | 法律、条例 | 法律、条例、 地方公共団体の長が定める規則 |
刑法規則の 適用 | あり | なし |
手続 | 刑事訴訟手続 | 国の法令…非訟事件手続法により裁判所が科す 条例・規則…地方公共団体の長が科す |
処罰内容 | 懲役、禁錮、罰金、拘留、科料 | 過料 |