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損失補償

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行政活動によって国民の権利利益が侵害されたときに
金銭等の保障措置により救済する制度として「国家賠償」と「損失補償」がある。

国家賠償は、国や地方公共団体等の「違法な活動」によって国民に損害を生じさせた場合に
加害者である国等が負うべき賠償責任に関する法制度である。  (⇒国家賠償法

損失補償は、正当な公益実現のための「適法な行政活動」だが、
それによって「特定の私人が特別の犠牲として被る損失」に対する「補填」の制度である。
 

損失補償を要する「特別の犠牲」


憲法29条3項
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


損失補償とは、公益実現のための公権力行使により、
特定の私人に「特別の犠牲」が生じた場合に
公平の見地から、社会全体の負担により調節する財産的補償である。

ただし、なにをもって「特別な犠牲」に該当するとするのかについては
必ずしも明確ではなく、損失補償に関する一般法は存在しない

土地収用などは、公共事業の予定地の所有者の所有権を奪うわけであるから
「特別の犠牲」と言えることは論をまたないが
土地利用についての「軽微な利用制限」については補償を要しないとされる場合が多い。

また、危険建築物として取壊しを命じる場合などは
社会的に当然に受忍すべき制約として、損失補償の対象とならない。

実際上は、個別的な法律において損失補償の規定が設けられ、補償されることになる。
 ・公共事業の土地収用(土地収用法68条以下)
 ・河川などの占有許可の撤回(河川法76条)
 ・消防活動のための建物の取壊し(消防法29条3項)
など

個別法の規定がない場合、判例は、
「直接に憲法を根拠とする損失補償の請求は可能である」としている。
ただし、請求は可能でも、実際に補償を認めた判例はない。


損失補償の「正当な補償」

憲法29条3項は、「正当な補償」を要する、としているが、その内容が問題となる。

戦後の農地改革における判例では、
市場価格を大きく下回るものでも「正当な補償」であるとし、「相当な補償」で足りるとした。

ただし、その後の判例では
「収用の前後において相手方の財産価値が等しくなるような補償をすべきである」
とし、「完全な補償」を求めた。

土地収用法も、近傍類地の取引価格を基準として算定する、としており、
一部の土地収用で残りの土地が下落した場合も補償の対象とされている。

ただし、以下については補償の「対象外」とされている。
・収容対象物である文化財(輪中堤)の価値
・土地への愛着などの精神的価値に対する損失
・別の土地で生活再建するための費用

国家賠償との谷間

憲法上、損失補償を要するとされているのは、「財産権」についてだけである。

つまり、公共利益のために身体・生命に損害を被った者は、補償を受けることはできない。

もちろん、これが国家賠償の要件を満たす場合であれば損害賠償を受けることになるが、
公権力を行使した公務員の「故意・過失」が認められなければ、これも受けられないこととなる。

これを「国家賠償と損失補償の谷間」の問題という。

例えば、予防接種の副作用によって身体的損害を被った場合、
損失補償の対象とは言えず、
接種した医師の過失を立証するのはほぼ不可能に近いといえる。

こうした場合には、社会全体の負担による補償が行われて当然ではないのか?
ということが問題となってくるわけである。
(強制接種はもちろん、奨励であっても、国に責任がある)

このような発想から、
下級審においては、憲法29条の類推解釈により、被害者に損失補償を認めた例があるが、
最高裁は、過失認定の緩和によって、国家賠償による救済を図っている。




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