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国家賠償法 ① (公権力の行使に基づく賠償)
行政書士試験ランクA
行政活動によって国民の権利利益が侵害されたときに
金銭等の保障措置により救済する制度として「国家賠償」と「損失補償」がある。
国家賠償は、国や地方公共団体等の「違法な活動」によって国民に損害を生じさせた場合に
加害者である国等が負うべき賠償責任に関する法制度である。
損失補償は、正当な公益実現のための「適法な行政活動」だが、
それによって「特定の私人が特別の犠牲として被る損失」に対する「補填」の制度である。
「国家賠償法」は、
① 「公権力の行使」に基づく賠償責任(第1条)
② 「公の営造物」の設置・管理の瑕疵に基づく賠償責任(第2条)
を定めている。
公権力の行使に基づく賠償
国家賠償法 第一条
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
賠償の「要件」
第1条が規定する「公権力の行使」に基づく賠償責任の「成立要件」は以下
「成立要件」 |
① 公権力の行使にあたる公務員の行為である ② 職務を行うにつきなされたものである ③ 加害行為に違法性がある ④ 公務員に故意・過失がある。 ⑤ 損害の発生 |
「公権力の行使」にあたる
国家賠償法1条による国等の賠償責任は
「公権力の行使に当たる」公務員の不法行為、に限定される。
ここでいう「公権力の行使」は、非常に幅広い行政活動が対象となる。
行政指導や情報提供など、「権力」という表現にそぐわない行政活動についても
国家賠償の対象として認められ、例えば公立学校での授業における事故でも1条が適用される。
(これは行政事件訴訟法における公権力の行使の厳格な解釈と対照的である)
*なお、「公権力の行使」は、行政権だけではなく、司法権、立法権も含まれる。
「公務員」の行為
ここでいう「公務員」は、国家公務員法や地方公務員法の適用になる公務員に限定されない。
たとえ私人であっても、委託などによって「公務」を遂行していれば、公務員として扱われる。
例えば、
法により義務付けられた予防接種を国から委託され行った民間の医師は、
公務員として扱われる。
《特定性の問題》
「特定性の問題」とは、例えば、
デモに対する機動隊の鎮圧活動で、デモ参加者が負傷した場合、
加害者である公務員が特定できない場合をいう。
こうした場合でも、いずれかの公務員の加害行為が立証されれば足り、
個別の公務員の特定は必要ない、とされている。
また、公害に対する国の対応の誤りなど、組織的な決定の誤りが争われる場合でも
個別の公務員の個別の行為ではなく、組織としての一連の決定過程の中に違法行為があり
それにより被害が生じたのであれば、賠償責任を問うことができる。
「職務を行うにつき」
公務員が「職務を行うにつき」、という要件は、
「外形説」に基づいて判断されている。
例えば、警官が、非番の日に、制服を着用して、職務を装って犯罪を犯した場合は
実際には職務を行っていなくても、その損害に対し国家賠償法が適用される。
「客観的に職務執行の外形をそなえる行為」は「職務を行うにつき」の要件となる、ということ。
もちろん、以下の場合は対象外となる。
・公務員が休日に、マイカーで事故を起こした
・公務員がでない者が、公務員を装って不法行為をした
「故意・過失」「違法」
国家賠償法1条は、「故意又は過失」を賠償の要件としており、「過失責任主義」である。
(無過失責任、結果責任ではない)
ただし、何を「過失」とし「違法」とするかについて実際の認定において問題となる場合が多く
具体的ケースに応じて判断することになる。
「故意」については、
「職務を執行するにあたり、当該行為によって客観的に違法とされる事実が発生することを認識
しながらこれを行う場合をいう」という判例もあり、判定は難しくない。
「過失」「違法性」については
「職務上通常尽くされすべき注意義務を尽くさなかった」
という一種の注意義務違反とらえ、判断するケースが多い。
(抗告訴訟においての「違法」とは「処分が、根拠法令の行為規範に反していること」となるが
これは国家賠償法の「違法」と全く違った基準である。)
例えば、取消訴訟において課税処分が所得税法などの課税要件規定に反していれば「違法」だが
国家賠償責任においては、その処分が行われる過程で「十分な調査が尽くされたか」
が過失の有無、違法性の判断基準となる。
また、行政庁の規制権限の不行使も、違法とされる場合がある。
例えば、関西水俣病訴訟においては
「国が、水俣病の原因物質がチッソ水俣工場からの排水中の有機水銀化合物であることを
高度の蓋然性を持って知りうる状況にあった」
とし、規制権限の不行使を違法として、患者らの国家賠償請求を認容している。
*公権力の行使に当たる公務員の「失火」による国家賠償責任においては
「失火責任法」が適用され、当該公務員に「重過失」がある場合に限り
国等は賠償責任を負う。
効果
請求が認容された場合、国または公共団体に賠償責任が発生する。
- 国・公共団体は、選任・監督につき過失のないことを立証しても、
賠償責任を免れることはできない。 - 加害公務員への求償は、
当該公務員に「故意」または「重過失」があった場合のみ認められる。 - 被害者が、加害公務員に対して、直接、損害賠償請求をすることはできない。
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